●中村 俊一 (Toshikazu Nakamura)さん
大分県出身。小学4年生の時に家族でオーストラリアに移住。現地の大学の経済学部を首席で卒業後、日本に帰国し、株式会社リクルートへ就職。
その後MBAを取得し複数の事業を立ち上げた後、株式会社マイナビ、株式会社リアライブなどの人材業界を経て、株式会社クリアソンに在職。
サッカークラブで新規事業の責任者、海外大学のキャリアセンター、人材会社の顧問、オリンピックのメダリストとアスリート研究所の立ち上げなどに関わる。

家族でオーストラリアに移住し、現地の生活に適応していく


―小学生の時に、家族でオーストラリアに移住されたそうですね
まずシドニーに1年、その後、高校卒業までサンシャインコーストに住んでいました。

シドニーでは日本人学校に通っていたこともあり、日本に住んでいた時とのギャップはあまり感じませんでした。

ところがサンシャインコーストは、当時日本人が僕の家族だけという環境。

学校も日本人を受け入れたことがなく、最初は大変でしたね。英語もできないし、スポーツをすれば身体能力もオーストラリア人にはかなわない。

挙げ句の果てに、ランチにおにぎりを持って行ったら、海苔を見た同級生から「海藻食べてる、気持ち悪い!」なんて言われるし(笑)
―子供心に辛いですね…厳しい時期をどのように乗り切りましたか?
例えばバスケットボールをやる時は、体格だけの勝負では勝てないので、戦略や戦術で勝負しようと決めました。

バスケットボールには「こうきたら、こう動く」という型が決まっている、数学的なところがあるので。

このように、コンプレックスを感じるよりも、完璧ではない中でどう勝負するかという考え方が、小さい頃から自然と身についたと思います。

自分から求めたわけではなく、たまたま厳しい環境へと身を置くことになりましたが、この時の経験から「未知の世界へ挑戦すること」「コンフォートゾーンに満足しないこと」の重要性を学べたと感じました。

オーストラリアの大学を卒業後、リクルートに就職


―現地の大学を卒業後、日本で就職を決めた理由を教えてください
東京かっこいい!みたいな、都会への憧れです(笑)。

大学を卒業後、東京で就職活動を始めました。

総合商社やメーカー、広告代理店など、とりあえず色んな業界の大手企業を受けてみて…22社の内定の中から、何となくリクルートを選びました。
―就活無双ですね…!
他の学生は「安定した企業」を求めていた一方で、僕自身は「会社が安定していても、自分が安定してなくては意味がない」と思えていたことが、今考えれば成功に繋がったのかなと思います。

これは、良くも悪くも海外で自分の力の無さを実感できていたからだと感じます。所属する組織が安定していても、自分に力がなければ意味がない。

だからこそ、厳しい環境に身を置くことを本心から求めていたのだと思います。


―リクルートでのお仕事について教えてください
求人雑誌や転職媒体の営業に行き、広告を作るという、セールスとクリエイティブの両方を担当していました。
―リクルートで様々な賞を受賞されていますが、この結果をどう捉えていますか?
仕事の本質は問題解決なので、結果とは「どれだけ広く・深く問題が見えているか」「解決策を持っているか」です。

そして、日本とオーストラリアのように2つの国を経験することで、全く違った視点から問題を考えたり、解決策を考えられたりできると思っていて。

海外にいると日本を客観視できるので、「日本の当たり前は当たり前ではない」ということにも気付けるし、逆に、日本人としてオーストラリアにいるからこそ、「オーストラリア人が当たり前だと思っていることも、当たり前ではない」ということに気付ける。

このように、広く問題を捉えられることにビジネスチャンスがあるのだと思います。

それから、オーストラリアの教育の影響もあるかもしれません。

オーストラリアの学校の授業では、何が正しいかよりも、様々な主張を通して議論を深めることを重視しています。

例えば、二酸化炭素の是非にしても、日本の教育では「二酸化炭素=環境に害があるから悪い」が前提になりがちです。

でもオーストラリアでは、産業の成長に必要だと捉えるのか、それとも、地球は人間の産業のためのものではないからやっぱり良くないと捉えるのか、という具合に話が展開します。

こんな風に、1つのトピックに対して多角的にじっくり考えることが習慣化していました。

人材業界へ、そしてスポーツ系ベンチャーで就職活動を支援


―リクルート退職後のお仕事について教えてください
人材エージェントのカウンセラーから始まり、徐々に、マネジャーとしてカウンセラーの採用や教育、事業企画などにも携わるようになりました。
―現在働いているクリアソンは、フットボールチームやアスリートの栄養サポート、地域スポーツ推進など、幅広い世代に向けて様々なスポーツ関連事業を手掛けるベンチャー企業です。どんなお仕事をされていますか?
オリンピック選手やプロスポーツ選手とタイアップしてトークイベントや、教育コンテンツの開発をしています。

スポーツというマーケットは儲けにくいのでビジネスとしてのハードルは高いですが、今までの経験があったからこそ実現できたプロジェクトのひとつだと感じています。

―引き続き人材関係のお仕事も?

体育会系の学生や、20代の就職活動支援を行っています。

すぐに転職させるのではなく、その前にやるべきことを一緒に整理するという、教育面に注力していて。

会社に入ることだけが選択肢ではないので、留学でも、アルバイトだっていい。進む道を自分で考えて選んでもらえるように、フォローすることを大切にしています。

日本人がなめられるのは、好きじゃない。成功するまで、成長を見守りたい

―人材や教育業界に携わる理由は?
これは僕の場合、日本限定というか…もしオーストラリアにいたら、全然違うことをやっていたと思います。

根底には「日本人がなめられたままでいるのは嫌だ」という気持ちがあって。

と言うのも日本人、特に男性は、海外に出ると下に見られがちで劣等感を抱く人が多いと感じます。

その原因は、日本人が海外で強さを証明していないから。

僕自身も、オーストラリアから日本に帰国して「日本人、弱いな」と感じました。

日本人は遠慮して、厳しく言わずに「良いんじゃない、大丈夫だよ」とグレーにしてしまう傾向があります。

海外では、中途半端な意見に対しては驚くほど否定されるし、心が折れるぐらいボコボコにされます(笑)

日本ではそれを「協調性」という耳障りの良い言葉で濁すことがありますが、そろそろ協調性という言葉のアップデートをしないと世界から取り残されてしまうな、という危機感のようなものを抱いています。
―世界から一目置かれるような、海外で通用する日本人を育てていきたい、という気持ちの現れなのですね
育てるなんておこがましいですが、まずは自分が海外で得た強さを証明し、そこに共感した人が「自分もこうありたい」と思えることがスタートだと感じます。

そして変わりたいと心から思っている人たちに、損得勘定を抜きにして自分の経験や、知識を共有できる人でありたいと思います。

強さとは、自我を持つこと

―人材のプロという立場から見て、強さの秘訣とは?

自分で考えて行動できること、つまり自我を持っていることです。

マネージャーとして部下を育てる立場になって思うのは、自我を育てるのは難しいということ。

自分はこう思う・こうしたい・こうあるべきだということをはっきりと言える人がいない。

何かしら心の中に思っていることがあるはずなのに、周りの意見と違ったらどうしようという不安が上回ることで多数決の流れに身を寄せ、失敗が少ない生き方をしている。

そういうことを繰り返していると、いつの間にか自分の心の声すら聞こえなくなって、他人に言われたことや、周りが正しいと言うことに忠実になることが一番楽という考えに落ち着いてしまう。

このような思考停止状態、つまり自我がない状態では、ロボットのような働き方になってしまいます。

それを「やりがいがない」と感じ不満を抱く人もいますが、そもそも自分が主張しないからそうなるのです。

常に自分の考えを持ち、間違っていても良いから発言して、摩擦の中で自分の考えを研ぎ澄ませていくことが重要です。

そして自分の主張が通らないのは能力・人間性が不足しているからだという現実を真摯に受け入れること。これが一番大事ではないでしょうか。

海外では、自我が芽生えやすい。キャリア成功における留学のメリットとは


日本人には自我を持つ人が少ないと感じる一方で、留学経験者は、自我を持っている人が多い印象です。

海外に行くと、良くも悪くも自我が生まれやすいからでしょう。

全く違う環境で、当たり前が当たり前ではないという気付きや刺激を受ける中で、自分がどうしたいのかを考えるようになります。

自分の意見がなければ、「あなたはどうしたいの?」「あなたの考えはどこにあるの?」と色んな人から質問が来るでしょう。

そして自分に考えがなければ輪の中に入ることができない。海外はそういう環境です。

また留学中に色んな国や文化の人と関わると、時にはコミュニケーションが上手くいかないこともあります。

そこで上手くいかない理由を考え、修正するというプロセスを経験すると、自分にフィットしない文化や考え方に対して、ギャップを埋めて適応することを学べます。

仕事とは、理想と現実の間に妥協点を見出して、いかに最大化するかを考えること。

だから、ギャップを埋められる人は優秀です。

日本の学生は、理想と現実のギャップをそれほど経験していないから、会社に理想を求めすぎる人も多い。

そうすると「理想と違う」と言ってすぐに辞めてしまいますが、どこで働いても結局同じです。

その点、ギャップに直面する機会を多く経験することは、強みとなるはずです。

これは留学したから身に付くというよりも、留学から逃げないことで得られる力です。

留学に行くだけではなく、動機と決断軸を大切に

留学に行くこと自体に意味があるわけではありません。大事なのは、動機や決断軸。

なぜ留学なのか、なぜオーストラリアなのかを考えて、正しい方向に価値を見出すことが大切です。

「これからの時代は英語くらい話せないと」「英語を覚えて、英語を使いたい」なんていう人は、よく考えたほうがいい。

むしろ、英語が話せるようになることで市場価値が下がることがあります。

仕事ができないのに「英語を使いたい!」なんて仕事を選ぼうとする人は、企業にとって面倒臭い人材だからです。

やりたいことがあるなら、選ばれる人間にならないといけません。

楽しい留学が間違っているわけではありませんが…キャリアを見据えた留学をするのであれば、「人が仕事を選ぶのではなく、仕事が人を選ぶ」ということを忘れないでくださいね。

取材後記

第1回インタビューで登場いただいた畑さんがオーストラリア留学中、就職活動でお世話になったという中村さん。厳しくも的確で愛のあるキャリアアドバイスは、できれば留学中、いや留学前に聞いておきたかった…!学生のうちに中村さんに出会える若者が、羨ましい限りです。ありがとうございました。

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