●幸田 眞瑜(Mayu Koda)さん
東京都出身。国際基督教大学教養学部を卒業し、モナッシュ大学院に留学。教育学(中学校・高校課程)修士を卒業後、大手予備校グループの英語学習塾に入社し、中高一貫校に教師として在職。※現在は都内の私立高校に在職。所属およびインタビュー内容は、取材当時のものです

英語教師として、教育の現場に仕組みづくりから携わる


―お仕事について教えてください
中高一貫校の英語教師をしています。英語教育に力を入れている学校で、帰国子女のための英語の授業なども担当しています。

数年前に男女共学になった新しい学校のため、カリキュラム作りなどのアイディアを出して仕組み作りに携わる機会も多いです。

また授業だけではなく、クラスの副担任や英語部の顧問、学校説明会の対応など様々な業務があります。

国際バカロレア認定校のニュースをきっかけに大学院留学へ

―教師というキャリアを志したきっかけは?
学部の時に話題になった、国際バカロレア認定校(IB校)を増やすというニュース(2013年5月、教育再生実行会議の第三次提言にて、国内のIB校を16校から200校に増加する目標を記載)です。

私自身がインターナショナルスクール出身でIBを修了していたため、印象的でした。

ちょうど就職活動の時期で、自分に合う業界を考えていたのですが、子供の頃から友達に勉強を教えたり、高校生の時に後輩にチューターをしたりと、もともと「教える」ということが好きだったことも思い出して。

「今後IB校が増えるのであれば、そこに就職するのもあり」と思い、教職を取るため大学院への進学を決めました。

6月に学部を卒業後、翌年4月の大学院入学に向けて、母校のインターナショナルスクールで話を聞いたり、インターネットで情報収集をしたりしました。
―オーストラリアの大学院を選んだ理由を教えてください
最初は日本の大学院への進学を考えていましたが、日本語で入学試験があることを知り「高校卒業まで日本の学校教育を受けていなかった私には、難しいかも…」と(笑)

そこで「IB校で働くことが前提なら、海外に進学しても良いのでは?」と考えるようになりました。

各国の制度や教育環境を調べると、国によって状況は様々。

教員免許取得のための留学が一般的ではなく出願手続きが複雑だったり、教員志望者が多く卒業後の就職先が少ないことから、教職課程が厳しかったり…

最終的には、中学生の時に住んだことがあり、馴染みのあったオーストラリアで、中でも世界的に見て教育・文化が発達しているメルボルンを選びました。


―メルボルンの中で、モナッシュ大学院を選んだ理由は?
メルボルンにある各大学院からのオファー内容を比較して決めました。

オーストラリアの教員免許は、州によって規定が違います。

中学校・高校課程の免許を取る場合、メルボルンのあるビクトリア州では専門教科を2つ修了する必要があり、その専門教科は、学部の専攻を元に大学院が判断してオファー時に通知されます。

メルボルンの大学院に全て出願したところ、大学院によってオファー内容が違いました。

希望していた中学校・高校課程ではなく小学校課程だったり、専門教科が日本語だったり。

日本の学校への就職に活かせる専門が良いと考えていたところ、モナッシュ大学院のオファーが「中学校・高校課程で、専門教科がTESOL とSocial Education(文系科目全般を教えられる内容)」という内容でした。

日本でTESOLを教えられるに越したことはないですし、Social Educationを修了すれば、歴史や地理、心理学など幅広い教科を教えられることに魅力を感じました。


―留学して教員免許を取得する=現地就職のイメージを抱いていましたが、幸田さんの場合は、あくまで日本での就職を見据えていたのですね!
そうですね。ただ、大学院を卒業後Temporary Graduate Visa(通称・卒業ビザ)で1年間働くことも可能です。

最初は「まずオーストラリアで働いて、場合によっては就労ビザや永住権取得も目指し、最終的に日本に戻る」というキャリアプランを描いていました。

イタリアでの教育実習が、日本への就職を後押し


―卒業後、すぐに日本で就職されています。「まずはオーストラリアで働く」という当初のキャリアプランとは異なりますが、何か理由が?
きっかけは、イタリアでの教育実習です。
―オーストラリアではなくイタリア!?
教職課程では合計60日間の教育実習を行う必要があり、メルボルンの現地校でも45日間の教育実習を行いました。

ただ、それだけではなく、イタリアの現地校で3週間、英語や歴史、地理を教えました。

モナッシュ大学は海外にキャンパスがあるインターナショナルな学校で、オーストラリア国外でも教育実習が可能。

私が在籍していた時は、希望すればイタリアや南アフリカ、クック諸島で実習できる制度がありました。
―イタリアでの教育実習はどうでしたか?
日本が好きな人や、日本に興味を持つ人も多くとても良くしていただきました。

そこで感じたのは「正規留学生だからこそ、こういう形でイタリアに来ることができた」ということ。

短期留学では得られない機会だと感じましたし、「日本の学生にも、もっとこういう経験をしてもらいたい」という思いが芽生えました。

より多くの日本人が海外留学できるよう、日本の英語教育に携わりたいという気持ちから、大学院卒業後はすぐに日本で就職することを決めました。

モナッシュ大学院卒業後は英語学習塾に入社し、様々な運営業務を経験

―就職活動について教えてください
モナッシュ大学院卒業後に帰国し、就職・転職サイトや教員向けの人材紹介会社に登録して、本格的に就職活動を始めました。

最初は教職の求人を探しましたが、学校教員は基本的に日本の教員免許を取得している必要があったため、同じ教育業界である学習塾も視野に入れました。

その時にエン転職のサイトで見つけたのが、予備校グループの英語学習塾の求人募集。

転職者向けの求人で、新卒を採用する予定はなかったそうですが、応募したところ正社員として採用していただきました。
―英語学習塾でのお仕事について教えてください
英検やTOEFLなどの英語学習に特化した部門に配属されました。

グループ傘下にある帰国子女専門の受験対策塾から派生してできた新しい組織だったので、人数も少なく、ベンチャー企業のようにアイディアを出してやってみるという機会が多かったです。

講師業務もありましたが、担当は主に塾の運営。

講師の手配やマネジメント、生徒と保護者の対応、経理、広報、ウェブページや求人サイトの更新、パンフレット制作、提携先の留学エージェントとの面談、授業の運営、講座のリニューアルなど…色々なことをやりました。

その後学校に転職してからも、授業以外の様々な業務がありますが、この時の経験が活かされていますね。

日本の教員免許取得に向けて、働きながら通信教育を受講

―塾から学校への転職のきっかけは?
夜型である塾の勤務は肉体的にもハードだと感じ、やはり日本の学校で働きたいと思うようになりました。

そこで、通信教育で日本の教員免許を取得するため英語学習塾を退職し、勉強しながら働ける仕事を求めて転職活動を始めました。

いくつかの転職サイトを使って探したのですが、たまたま新卒の時に利用したエン転職を見ると、中高一貫校の英語科の求人があって。

募集内容に「これから教員免許を取得予定であれば歓迎」と書かれていて、自分にマッチしていると思い応募したところ、内定をいただきました。

こうして偶然にも、教員免許の通信課程と教師としての仕事を同じタイミングで始めることになりました。

2年間の通信課程を経て、2020年3月に教員免許を取得予定です。そうすると日本国内のどの中学校・高校でも、英語を教えられるようになります。

変革期にある日本の英語教育は、留学経験を活かせる環境


―今の日本の英語教育について、どう感じていますか?
入試の制度なども含め、日本の教育業界全体に「変わらなければいけない」という雰囲気があり、英語教育の変革期だと感じます。

そこで求められているのは、まさにモナッシュ大学院で勉強した、TESOLのような教授法や実践経験。私自身の留学経験を活かせる環境だと思います。

日本の教職課程は、モナッシュ大学院の実践的なスタイルと比べると知識詰込み型だと感じますが、TESOLを持った教師が増えれば、より効果的に英語を指導できるようになり、日本の英語教育は良くなっていくと思います。

既に日本の教員免許を持っている人も、TESOLのような教え方を習得することや、そのために留学することは価値があると思います。

留学は、あくまで選択肢の1つ。恐れずに可能性を探ることが大切

―幸田さんにとって留学とは?
留学というと大きなことに捉えがちですが、「海外だから特別」というよりは、あくまでも1つの選択肢なのかな、と。

もちろん留学はチャレンジです。

ただ、私にとって留学は「教職を取る」という目的を達成するための方法の1つでした。

だから、留学は人生における1つのステージにすぎないのではないかと思います。
―海外を身近に感じる環境で育った幸田さんだからこそ、留学に対して良い意味でフラットな目線を持っていますね!
英語に対しても、構えすぎなくて良いのではないでしょうか。

日本人は特に、英語が苦手・自信がないという人も少なくありませんが、海外に出ると、むしろ英語が母国語である人の方が少ないことに気付くはず。

恐れずに、色んな国の人とコミュニケーションを取ってほしいです。
―留学を考えている学生にアドバイスをお願いします
留学には、例えば金銭的な問題もあると思います。

そんな時は、最初から諦める前に、可能性を探してみることも大切。

奨学金や財団法人など、意外と色んな手段があるので、まずは調べてみることをおすすめします。

取材後記

目標のためにできることや可能性を徹底的に調べ、進むべき道を選んで挑戦し、キャリアを切り拓いた幸田さん。様々な経験を経て教師になったからこそ、幅広い視野を持ち教育現場に携わることができるのでしょう。幸田さんのような先生が、これからもっとたくさん、日本に増えてほしいと感じました。

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