●亀井 奈々子(Nanako Kamei)さん
千葉県出身。横浜市立大学国際総合科学部を卒業し、ディーキン大学院に留学。教育学(幼児期・小学校課程)修士を卒業後、メルボルンの保育幼稚園に勤務。

子どもたちの自主性を伸ばす、オーストラリアの幼児教育


―現在のお仕事について教えてください
メルボルンにある保育幼稚園で働いています。

クラスには、ルームリーダーやアシスタントという役割があり、最初は2歳児クラスのアシスタント、今は3歳児クラスのルームリーダーとして、最大20人の子どもたちを担当しています。
―配属が変わり、何か違いを感じますか?
3歳児は、自分の主張がはっきりできるようになる難しい時期ということもあって、2歳児よりも大変です(笑)

ただ昨日できなかったことができるようになったり、教えたことが身になっていたりすると、子どもたちの成長を実感し、やりがいを感じます。

ポジションは、ルームリーダーのサポート役であるアシスタントから、クラスのアクティビティなどを決める立場であるルームリーダーになったので、責任が大きくなりました。
―どんなアクティビティを行うのですか?
ディスカッションなど色々ありますが、オーストラリアでよくあるアクティビティの1つが「Show and Tell」。

何か本人にとって特別な物を持参して、その物についての紹介や、それが自分にとって特別な理由、関連する出来事などをクラス全員の前で発表します。人前で話す自信をつける目的で行います。


―私が通っていた日本の保育園や幼稚園では、やったことがないです…!
日本では、みんなで歌う、一緒に同じものを作る、などが一般的ですよね。

そもそもアクティビティの内容も、最初から学年全体で決まっていることも多いと思います。

一方オーストラリアでは、子どもたちの興味に合わせてアクティビティを考えるので、内容はクラスごとに違います。

例えば、ディスカッションのテーマ設定も、クラスの子どもたちが救急車に興味を示しているなら「救急車を呼ぶのはどんな時?」などをテーマにします。

アクティビティの他は、自由に遊ばせる時間も多いですね。


―子どもたちの自由時間は、どのようにお仕事をしていますか?
一番大切なことは子どもたちの安全確認ですが、その他にintentional teachingという考え方を意識しています。

例えば、ある子が何かを作っていたら「もう少し大きくするためにはどうすれば良い?」と働きかけて意見を引き出し、「やってみよう」と促したり、失敗したら「どうしたら上手くいくかな?」と問いかけたり。
―「こうした方が良い」というアドバイスではないのですね
オーストラリアの教育では、決められたものや答えを与えることはタブーだと考えられていて。

子どもたちが想像力を使って、自分が好きなこと・興味があることを行い、自主性を伸ばす方針です。
―素敵な教育ですね!
そうですよね、ただルームリーダーという立場としては大変です(笑)

個人にフォーカスする必要があるということは、それぞれが違うことをやっている中で、1人1人を観察しなければいけないということなので…!
―高いスキルが必要だと感じます
私自身は皆が同じことをやる環境で育ったこともあり、幼児教育を学び始めた留学当初は、自由度の高さに戸惑いました…!

交換留学をきっかけに「メルボルンに住みたい!」


―留学のきっかけを教えてください
学部時代に交換留学でメルボルンに住み、「学部を卒業したら、オーストラリアに戻りたい」と思ったことです。

交換留学先としてオーストラリアを選んだのは、小学生の時にニューカッスルに住んだ経験があって親しみを感じていたため。

中でも、テレビを観てメルボルンの街や文化に興味を持ったので、メルボルン内で交換留学が可能だったディーキン大学を選びました。

色々な文化が集まるメルボルンはとても面白く、移住を目指して大学院留学を決めました。


―ディーキン大学院を選んだ理由は?
留学フェアに行く途中、最寄りの駅でディーキン大学付属の語学学校の校長先生に偶然再会したからです…!

交換留学の当初に通った縁から、交換留学中は語学学校でアルバイトをしていて、校長先生とも顔見知りで。

もともとメルボルンにある別の大学院への留学を考えていたのですが、校長先生と再会して話をするうちに、奨学金のオファーをいただき、ディーキン大学院へ留学することにしました。

語学学校のブリッジングコースを経てディーキン大学院に入学したのですが、奨学金のお陰で、ブリッジングコースの学費を免除していただくことができました。


―教育学を専攻した理由は?
交換留学中にディーキン大学の授業を受ける中で、オーストラリアの教育に興味を持ったからです。

日本の学校では発言や発表の機会は少ないですが、オーストラリアはグループワークやディスカッションが中心。

自分が発言しない日はないほど皆が参加し、生徒主体という教え方に、最初は驚きましたが、とてもためになりました。

留学中のボランティアを通して、専攻を見極めることができた


―教育学の中で、幼児期・小学校課程を選んだ理由を教えてください
現地の学校でのボランティアを通して、小学校が楽しかったこと、さらに永住権を視野に入れた時に幼児教育も勉強しようと思ったことです。

交換留学中や、ブリッジングコース修了から大学院入学までの期間、メルボルンにある小学校〜高校でボランティアをしました。

最初は中学・高校課程の専攻を考えていましたが、実際にボランティアをしたら「私は小学校の方が良いな」と。

現地のコミュニティに足を踏み入れたいという気持ちで始めたボランティアでしたが、大学院の専攻を決める上で判断材料にもなったので、経験して良かったです。

ボランティアは大学院入学後も続け、そのお陰で助けられたことも。

例えば「子どもを探して、その子のためにアクティビティを考えて実施する」というレポート課題が出た時のことです。

現地の学生が親戚などの身近な子どもにお願いする中、留学生である私には知り合いがいなくて…ボランティア先の小学校に頼み、協力してもらいました。

―留学中は勉強が大変ですが、時間を作って学校外で活動することも大切ですね!

とにかく実習の多い大学院!卒業後はスムーズに現地就職


―就職活動について教えてください
ディーキン大学院在学中に、実習先からオファーをもらいました。

ディーキン大学院のカリキュラムでは、2週間×1、3週間×1、5週間×1の計3回の実習が毎年あって。大学院の学期うち半分近くが実習期間でした。

1年目は小学校、2年目は保育幼稚園で実習し、2年目の実習先だった保育幼稚園で今も働いています。

オーストラリア留学を終える頃には、プロフェッショナルとして自信を持てていた


―オーストラリア留学の経験が活きていると感じることはありますか?
大学院を卒業する段階で、プロフェッショナルとして働けるレベルになれたことは大きいです。

先ほどお話しした通り、大学院は実習が多く、授業もロールプレイなど実践的な内容でした。

最初は恥ずかしかったものの徐々に慣れていき、卒業時には自信を持てていて。

入社後は研修などはなく、即戦力が求められましたが、大学院の経験のお陰でスムーズに働き始めることができました。


―これからやりたいことは?
まずは今の仕事に慣れることが一番ですが、いつか小学校の低学年の子に日本語を教えてみたいです。実習で経験し、とても楽しかったので!

実践的な経験をして、自分で考え、周りに伝える機会を


―留学を考えている学生にアドバイスをお願いします
オーストラリアの人は、何を質問しても何かしら答えるので、自分で考えること、それを周りに伝えることを練習すると良いと思います。

私は留学当初「自分が何を考えているのかすら分からない」と感じることもありました。

でも、興味のあった教育について大学院で勉強し、関連するボランティアなどに取り組む中で経験が増え、考えることや伝えることができるようになったと思います。

―興味のあることに取り組むことで、考えるようになる…なるほど!留学中は1秒も無駄にせず、色んなことに取り組みたいですね!

取材後記

「オーストラリア留学では主体性が求められる」と言われますが、そんなオーストラリア文化の原点を支えるのが、亀井さんが携わる幼児教育なのだと感じました。

とても責任のあるお仕事ですが、留学を通してスキルや経験、自信を身に付けた亀井さん。「留学中の後悔は?」という質問に「ないです!」ときっぱり応える姿が、とても頼もしかったです。

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