●柴田 奈々(Nana Shibata)さん
福岡県出身。県内の高校を卒業後、グリフィス大学提携の語学学校を経て観光学専攻で商学ディプロマを修了し、アジア学部に編入。交換留学で1年間香港大学に在籍。
卒業後は日本の大手新聞社に記者職で入社。2019年より同社の英文記者。

グローバルなメディアで、あらゆる分野を報道する英文記者


―現在のお仕事について教えてください
英文メディアの記者として、アジア地域のニュースを発信しています。デジタル版と雑誌があり、両方の媒体に向けて英語で記事を書いています。
―どんな記事を書いていますか?
取材のテーマは基本的に自由です。自分が行きたいと思う記者会見に行ったり、書きたいと思うことを取材したりして記事を出稿します。

英文記者は人数が少ないため、あらゆる分野をカバーしていますね。

週に1度は、速報担当として当日に入ってきた情報をまとめる仕事も。毎回「どんなニュースが飛び込んでくるだろう」と思いながら仕事に臨んでいます。
―裁量が大きいですね!取材内容は会社から決められていると思っていました
むしろ「自分が面白いと思うことを書くように」と言われています。なぜなら、自分が面白いと思えなければ、読者が読んでも面白くないから。

購読者の方に楽しんでいただくためにも、自分が楽しめる内容を記事にすることが大切です。

オーストラリアの学習スタイルに惹かれ、大学留学へ


―オーストラリア留学のきっかけを教えてください
中学3年生の修学旅行で、オーストラリアのパースに滞在したことです。現地の高校を見学し、授業のスタイルが印象的でした。

日本では、先生が話す内容をメモし、テストのために暗記して、テスト後に全て忘れて…という繰り返しですよね。

ところがオーストラリアの授業では、先生は教室の端で見ているだけで、生徒が能動的にディスカッションをしていて。

先生ではなく生徒が主役という教育方法がいいなと思い、留学を考えるようになりました。
―留学先としてオーストラリアを選んだ理由は?
他の国への留学も検討しましたが、最終的には、治安や気候の良さが決め手でした。

当時は観光学に興味があり、グリフィス大学の観光学部が有名だと聞いて入学しました。

アジア学部に編入し、朝4時起きで勉強に没頭


―観光学専攻でディプロマを取得後、なぜアジア学部へ転専攻を?
アジア人が多い環境で生活するうちに「アジア学の方が面白そう」と思うようになったからです。

留学中に尖閣諸島の領土問題がニュースになり、韓国人や中国人と話をすることがありました。

その中で「今まで日本の教科書で学んだことは、あくまでも日本側の意見であって、他の国の人たちには別の見方がある」ということを実感。こうした違いを面白いと感じるうちに、アジア学に興味を持つようになりました。
―アジア学部の授業はどうでしたか?
授業の内容は楽しかったです。現地のオーストラリア人や各国の留学生と一緒に、日中韓の歴史やオーストラリアと中国の関係など、アジアの国際関係を中心に学びました。

ただ、最初は本当に辛くて…

まず、課題やテストに関する説明があっても、英語が分からず詳細を理解できない。そこで、授業後に教授に聞きに行く、という繰り返しでした。

それから、プレゼンテーションやグループディスカッションで、現地のオーストラリア人同士が固まってグループを作ってしまい、留学生が入る余地がなく悔しかったです。

この頃は、Google検索で「留学辛い」と検索したり、飛行機を見ると「あの飛行機に乗って日本に帰りたい」と思ったり(笑)
―追い詰められてますね(笑)
でも、せっかく留学しているからにはオーストラリア人と仲良くならなければ、と。

そこで、オーストラリア人にできなくて私にできることや、日本人にしかない強みを考えました。

そしてたどり着いた結論は、授業の時に日本人ならではの価値観をしっかり伝えること。

発言するためには知識が必要なので、毎朝4時起きで予習課題の論文を読みこみ準備しました。

リーディングに時間がかかり大変でしたが、ディスカッションで発言すると相手も反応してくれるので、議論が盛り上がります。

そして次も盛り上げられるように頑張ろうと思うと勉強が楽しくなり、次第に友達も増えました。

入学したての頃は、泣いていた私ですが、卒業時には上位15%の成績優秀者に選んでもらうことができました。

香港大学への交換留学が、記者を目指すきっかけに


―交換留学について教えてください
アジア学を学ぶうちに、もっとアジアのことを知るためにアジアに行きたいと思い、交換留学を考えるようになりました。
―香港大学を選んだ理由は?
香港であれば英語が通じやすく、香港大学の公用語も英語だったからです。

また香港と中国の関係に興味を持ちました。
―印象に残っている出来事はありますか?
留学直後に偶然勃発した雨傘運動(2014年に香港で起きた民主化要求デモ)です。

大学内は異様な空気でした。香港大学には香港人と中国人の学生がいますが、香港人がデモに出払い、授業に中国人しかいなかったり、香港人の学生たちが黒い服(香港政府や中国への抗議を示す)を着ていたり。

さらに、大学の外に出ると大通りが人で埋め尽くされ、道が全て塞がれています。

それを見て「こんなに歴史的な瞬間を目の前にして、何か残さなければもったいない」と思い、雨傘運動の様子をビデオカメラで記録して、Youtubeにアップしました。

すると公開した動画がSNSで広がり、日本のテレビで放送されて、新聞社の方から取材も受けることに。

取材を受ける中で記者という仕事を知り、私自身も記者を志すようになりました。
―アジア学を専攻したことや、交換留学先での体験が転機になりましたね
アジア学ではジャーナリズムに近い内容を議論する機会が多く、また調べて興味を持ち現地に行くことや、色んな視点から自分なりの考えをまとめることが純粋に楽しかったです。

記者であれば、それを仕事にできると思いました。

偶然が重なり、CNN香港支局でインターンも

香港留学の後半、ある日タクシーに乗ろうとしていた時のことです。

行先を言っても英語が通じず困っていると、英語が話せる中国人から声を掛けられ、目的地まで一緒に行くことになりました。

タクシーの中でたまたまジャーナリズムの話になると、その人から「CNN香港支局で働いている友達がパーティーを開くから、遊びに来なよ」と誘われて。

パーティーから1か月ほど経った後、なんと「CNN香港支局で日本語の翻訳・通訳をお願いしたい」と連絡がありました。

最初は、ドキュメンタリーの日本語部分を英語に翻訳する仕事でしたが、その後イスラム国による日本人ジャーナリストの拘束が発生し、日本政府が出すコメントの英訳なども担当しました。
―貴重な経験ですね!
CNNでの経験は、報道のあり方を考える機会にもなりました。

例えば、民主化運動のニュースでCNNの報道から感じたのは「民主化運動は正しい」という意図。CNNは、民主主義であるアメリカのメディアなので、アメリカの価値観に合う伝え方になるのではないかと思いました。

でも、中国人にとっては共産主義が正しいことを考えると「アジア人の視点は、欧米の人たちに正しく理解されているのだろうか」と疑問を持つように。

そこで、アジア人として自分たちの価値観を伝える報道に携わりたいと思い、日本のメディアで働きたいと考えるようになりました。
―就職活動はどのように行いましたか?
単位を取り終えて、あとは卒業を待つだけというタイミングで就職活動の時期を迎えました。

まずは記者を受けてみて、だめだったらまた考えようと思っていましたが、CFNキャリアフォーラムに参加したところ、今勤めている会社から記者職で内定をいただきました。

留学後は新聞社に入社し、念願の記者へ


―入社後のお仕事について教えてください
最初はビジネスニュース部門で、消費財や環境、エネルギーなどの分野を中心に日本語で記事を書いていました。

新人記者に求められるのは、とにかくたくさんの記事を書くこと。

キャップ(リーダー)が大事なニュースに集中できるよう、数ある新聞や専門媒体の枠を埋めることが若い記者の役目です。

さらに、まずは場数を踏んで慣れるため、できるだけ多くの記者会見に足を運び、どんな小さな内容も記事にしてバリエーションを増やします。

ただ、取材に行きすぎると記事を書く時間がなくなってしまうので、はじめはバランスを掴むことが難しかったです。
―印象に残っている取材はありますか?
日本のエネルギー政策の方針と実態の違いを記事にしたことがあります。この記事は、公開後に電話がかかってくるなど読者からの反応がありました。

興味を持ってもらえるということは、声が届いたということ。

指摘しなければ変わらないかもしれないことが、記事にすることで変わるきっかけになると思うと、記者としてやりがいを感じます。
―日本語の記者から英文記者になり、違いを感じますか?
外国人を取材する機会が増えたことはもちろん、日本語と英語では記事の書き方が違いますね。

日本では当たり前の固有名詞も、外国人には分からないことがあるので、興味を惹きつける工夫が必要です。

例えば「京都で商品の生産を始めた」という内容なら、英文記事の出だしは「ティーセレモニーが有名で、サムライが戦ったキョウトという場所に…」という具合。
―ただ文章を訳すだけではないのですね!
遊び心がありますよね。切り口や書き方を考えることが楽しいです。

日本人としてアジアの考え方を発信しながら、自分なりの記事を書いていきたい


―今後の目標を教えて下さい
まずは、英語で上手に記事を書けるようになることです。

ただ、英語力はある程度まで伸ばせてもネイティブにはかないません。

そこで、ネイティブにはできない、アジアの考え方を伝えていきたいです。自分ならではの視点を持つ記事が、その人にしか書けないコンテンツになると思います。

今は専門を極めるよりも幅を広げる時期。これから色々な分野の取材を通して自分に合うことを見つけながら、アジア人の視点を発信していきたいです。

わくわくすることを全てやれば、将来やりたいことは見えてくる


―留学を考えている学生にアドバイスをお願いします
わくわくすることを全てやれば、将来やりたいことは見えてくると思っています。

どんな環境でも、1つくらい興味を持てることはあるのではないでしょうか。

私の場合、観光学を勉強している時はわくわくしませんでした。でも、現地のアジア人と話をすることが楽しくて専攻を変えたら、面白いと思うことが広がって、最終的に今のキャリアに繋がりました。

勉強が嫌いでも、例えば料理が好きであれば料理教室行ったり、そこで出会った人たちと話をしたり…そうした経験を通して、もっと極めたいとか趣味に留めたいとか、何かしら見えてくると思います。

実はコストパフォーマンスが良いオーストラリア留学

留学は金銭的な負担もあるので、ご家族を説得しなければいけない人もいるかもしれませんが…

オーストラリアへの正規留学は、私のような地方出身の場合、東京で一人暮らしをしながら私立大学に通うのと、実は総額はそれほど変わりません。

もちろん人によって異なりますが、入学から卒業までにかかる費用は、当時、東京の私立大学(一人暮らし)とオーストラリア留学はどちらも1000万程度と計算しました。

一方、得られる経験は正規留学の方が多いのではないでしょうか。

多様な価値観や自信が得られ、 複数の国に留学できるチャンスもあり、おまけに英語力もつく。

こう考えると、正規留学の方がコストパフォーマンスが良いと思いませんか?ぜひ、ご家族への説得の材料に使って欲しいです。
―さすが記者、筋の通った根拠をありがとうございます!

取材後記

記者になる運命が決まっていたのではないかと思うほど、ドラマのような偶然やタイミングに次々と導かれてジャーナリズムの道に進んだ柴田さん。
それは、柴田さんが持つ探究心とフットワーク、そして目の前のことに誰よりも一生懸命に取り組む姿勢が引き寄せた偶然ではないでしょうか。柴田さんを見ていると、「運命は努力した人に偶然を与える」って本当だなと思います。

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