●村野 美里(Misato Murano)さん
東京都出身。日本で働いた後、クイーンズランド大学院に入学し観光学を学ぶ。卒業後は和歌山大学の国際観光学研究センターでコーディネーターとして働く。
サスティナブルな観光に貢献する、和歌山大学の国際観光学研究センター
―現在のお仕事について教えてください
和歌山大学の国際観光学研究センターで、コーディネーターとして働いています。
このセンターでは、持続可能な(サスティナビリティ)観光の研究を重視しています。巨大な観光施設を建設して大勢を受け入れ、最後に廃れてしまうのではなく、持続的に活力のある街づくりや地域創生といったテーマの研究が多く行われています。
2016年に開設した新しい研究機関ですが、海外の大学や国連世界観光機関(UNWTO)との国際的な連携も強化しています。そのため当センターのキービジュアルは和風テイストで、日本らしく鶴をあしらっていますよ。
―デザインからも、観光学における日本代表としてのグローバルな印象を受けます
そうですね。近年、観光学部や学科は増えてきていますが、和歌山大学のように、専門研究機関を設けて研究を進めている大学は限られています。
―村野さんの業務について教えてください
私の仕事は、主に研究支援と広報です。
研究支援は、研究活性化のための制度整備や管理の他、主に海外からの研究者の受け入れ手配など。
新型コロナウイルス拡大以前は、毎月のように海外の大学の研究者にお越しいただき、セミナーなどのイベント開催や共同研究を行っていました。現在はオンライン開催が中心ですが、スケジュール調整やイベントの準備、運営、宣伝などを担当します。
また、世界各地で行われる学会などに出向くこともあり、国内外の出張も多かったです。フィリピンでの国連国際会議参加やウズベキスタンでの協定協議をはじめ色々な国を訪れ、プレゼンテーションや通訳を任されることもありました。
広報業務では、研究成果をメルマガや年次報告書などにまとめ、学内外に向けて発信します。外国人の研究員もいるので、文章は日英で作成します。
ちなみに、私はこのセンターの開設と同時に着任したので、広報の一環で公式サイトの立ち上げにも関わりました。現在のサイト内の原稿は、ほとんど私が書いています…!最近は、LinkedInのページも開設しました。
―幅広いお仕事ですね!今のキャリアのきっかけは?
オーストラリアの大学院への社会人留学で、観光学を勉強したことです。
1冊の本をきっかけに、クイーンズランド大学院へ社会人留学
―留学前のお仕事について教えてください
ビジネスプロセスアウトソーシング(コールセンターなど、企業の業務を外部に委託すること)を請け負う会社で働いていました。
―観光学や今のキャリアとは異なる分野ですね
はい。観光自体は学生時代から興味があり、新卒の就職活動で観光業界を考えたこともありました。ただ、当時は魅力を感じる職種が具体的に思い浮かばず、別の業界に就職しました。
転機になったのは、社会人になってから読んだ「県庁おもてなし課」(有川浩著)という小説です。
観光を軸に県庁が地域振興を目指す物語で、登場人物の1人が、観光コンサルタントとして県庁に企画や提案、助言をします。その本で観光コンサルタントという仕事を知り、面白そうだと思いました。
そして、そのようなキャリアを目指すのであれば、観光を専門的に勉強して修士号を取得した方が良いのではないかと考えるように。
外国学部出身で学生の時に長期留学を検討した経緯もあり、海外の大学院への進学を決めました。
―留学先はどのように選びましたか?
インターネットや留学エージェントを利用し、観光学を学べる大学院を調べました。
その時に候補として挙がったのが、オーストラリアのブリスベンにあるクイーンズランド大学院です。
並行してイギリスの大学院も検討しましたが、最初に合格通知が届いたクイーンズランド大学院を選択。10週間のブリッジングコースを受講し、その後修士課程に入学しました。
ブリッジングコースは、現地の生活や授業のスタイルに慣れる上でとても良い経験でした。正規留学という同じ目的を持つ留学生が集まるので「みんなで入学しよう!」という気持ちで切磋琢磨しながら頑張ることができました。
留学中は旅行代理店でインターンシップも経験
在学中は、クイーンズランド大学院の先輩の紹介で、日本人向け旅行代理店でインターンシップも経験しました。
主な仕事は、オーストラリアにいる日本人と日本からの旅行者のための旅行手配と広報。広報では、SNS運用や、webサイトのリニューアルにあたって文章の書き換えなどを行いました。
この時の経験は、今の職場での受け入れ手配業務や、公式サイトの立ち上げなどにも活きていると思います。
卒業のタイミングで求人募集を知り、就職へ
―就職活動について教えてください
最初は現地の観光局なども検討しましたが、就労ビザのスポンサーになってもらう必要があり、ハードルが高かったです…
ところが、ちょうど卒業直前のタイミングで、和歌山大学に国際観光学研究センターができること、そして求人募集が出ることをクイーンズランド大学院の先輩から教えてもらいました。
学期中に出願し、卒業後に面接を受けたところ無事に内定をいただき、今に至ります。常に求人が出ているポジションではないので、運が良かったです。
研究と産業の媒介として、観光の力で日本を元気にしたい
―これからやりたいことは?
観光の力で日本を元気にしたいという夢があります。特に、研究をいかに社会に還元するかという点は広く議論されているので、学術と産業の世界を結ぶ媒介として貢献していきたいです。
―村野さんは民間企業も経験していますし、アカデミックとビジネスの架け橋ですね
そうありたいです!また観光学の分野では、英語を使える人や海外の研究事情に詳しい人はまだそれほど多くないので、日本と海外を繋ぐ役割にもなれたらと思います。
積極的に提案ができるよう、国内外の観光事情をチェックするなど勉強の日々です。最近では、大きなオンラインイベントを開催する手法について、海外の事情を分析し論文を執筆しました。
―観光学の領域って広いですね…!
はい。観光学には様々な分野とコラボレーションできる可能性があると思います。
例えば、和歌山大学には観光学部の他に、教育学部、経済学部、システム工学部があります。
観光を産業という視点で捉えれば経済学、観光教育では教育学、データなどのデジタル活用の上ではシステム工学部と一緒にできることがあるかもしれません。
ただそのためには、まずお互いの取り組みを知ることが必要。そこで、和歌山大学の広報と連携するなど、学内に向けた情報発信も意識しています。
―コラボレーションのきっかけを作る、大事なお仕事です!
日本人、留学生を問わず現地のネットワークを大切に
―オーストラリア留学が活きていることは?
専門がキャリアに繋がっていることはもちろん、日本では出会えなかった人たちに出会い、新たな視野を持てたことで、仕事の世界観も変わりました。
今の環境やこれからの目標において、自分が本来、留学以前から興味を持っていたことに携われていると感じます。
―村野さんは、現地のネットワークが留学中のインターンシップや就職にも繋がっています。出会いを生むために、どんなことを意識していましたか?
現地の日本人コミュニティに積極的に参加していました。学部が開催するネットワーキング会や、駐在員など社会人に出会う機会を作っていましたね。
留学前は「英語漬けになるためにも、日本人同士で群れないようにしよう」という気持ちもありましたが、就職など卒業後のことも考えると、繋がりは大事だと思います。
今はオンライン留学が話題になっていますし、英語だけであれば日本でも習得できるかもしれません。でも留学の醍醐味は、現地で思いもよらない人に出会うこと、話すことではないでしょうか。
まず現地に行ってみて、分からないことがあれば誰かに聞き、様々な視点からアドバイスをもらうことがおすすめです。日本人や留学生を問わず、色々な人と話をすることが大切だと思います。
取材後記
今回のインタビューにあたり和歌山大学にお邪魔しましたが、さすがコーディネーターのお仕事をされている村野さん!交通アクセスから周辺の穴場スポットまで、当日までに色々な情報をとても丁寧に案内してくださいました。
村野さんの細やかな心遣いのお陰で、訪問を観光気分で楽しむ事ができました。
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