●吉野 モハメット 亜里(Yoshino Mohamettoari)さん
千葉県出身。県内の高校を卒業後、ワーキングホリデーで2年間パースに滞在。エディスコーワン大学ディプロマを経て、大学では会計学を専攻。卒業後はセールスフォース・ドットコムのインサイドセールスとして働く。
セールスフォースのインサイドセールスとして、さまざな業界を分析
―現在のお仕事について教えてください
セールスフォース・ドットコムでインサイドセールスとして働いています。弊社は、顧客関係管理サービスを提供しているアメリカの会社です。
顧客関係管理とは、顧客満足度を高めて売上向上につなげる手法です。それぞれの顧客の状況に応じたマーケティングやサポートを企業が実施できるよう、顧客情報や、やり取りの履歴などを管理できるツールを提供しています。
インサイドセールスは、マーケティング部門が獲得した見込み顧客に電話でアプローチをする仕事です。その際、事前にお客さまのビジネスの状況や背景を調べたり、分析したりします。たとえば、矢萩さんの職業は何ですか?
―私ですか?マーケティング会社のディレクターをしています。
ということは、マーケティング施策によって見込みクライアントを獲得し、まず営業の方が商談をして、受注すると矢萩さんが制作するんですよね?Webサイトの制作とか。
―はい、おっしゃるとおりです!
こんな風にお客さまのビジネスモデルを分析しながら、最適な提案を考えます。
この仕事の面白いところは、たとえば保険や広告などさまざまな業種の方と商談する機会があるので、全業界に詳しくなる点ですね。
それによって、いろいろな業界へのキャリアの可能性が広がり人材としての価値も高まりますし、やりがいを感じます。
ワーキングホリデーを経て、パースのエディスコーワン大学へ留学
―留学のきっかけを教えてください
高校生の時に進路を考える中で、大学で学びたいことがわからず、海外留学を考えるようになりました。目的のないまま日本で大学生活を送るよりも、海外で生活しながら英語も学べば、人生の幅や機会が広がると思いました。
父がパキスタン人で英語が堪能ということもあり、以前から英語を話せるようになりたいと漠然と思っていました。また高校2年生の時、短期留学でオーストラリアのアデレードに3週間滞在し、自然豊かなオーストラリアの環境に魅力を感じたこともあります。
そこで高校卒業後は、まずワーキングホリデーを利用して2年間オーストラリアのパースに滞在し、その後大学へ進学しました。
―最初から大学留学ではなく、ワーキングホリデーからスタートしたのですね
はい、留学は大学ありきではありませんでした。当時は周りを納得させる上で「大学留学」という目標は掲げていましたが、自分の中ではあくまでも英語の習得が目的でした。
ほかにも、滞在する都市が自分に合うかなど、いろいろな選択肢を選定する期間としてワーキングホリデーを利用しましたね。
―ワーキングホリデーの行き先として、オーストラリアのパースを選んだ理由を教えてください
知り合いが住んでいたこと、自然豊かな都市という環境、そしてオーストラリア国内で時給が1番高いことが決め手でした。
自分の場合、留学にかかる学費は自分で教育ローンを組み、生活費は自分で賄う必要がありました。
オーストラリアでは、留学生は週20時間まで働くことができます。限られた時間でできるだけ稼いで自立するためにも、賃金が高いことは重要でした。
勉強とアルバイトを両立しながら、会計を学ぶ
―ワーキングホリデーを終え、TAFEから大学へ進学します。進学先としてパースのエディスコーワン大学を選んだ理由は?
まずはパースにある大学を検討しました。オーストラリアは他国に比べると各大学の水準にあまり差がないので、大学そのもの以上に、都市の住みやすさで選びました。
その中で、エディスコーワン大学はめちゃめちゃおすすめです。
2000年代に創立された新しい大学なのですが、大学ランキングで急激に順位を伸ばしています。
大学の知名度を上げるため各分野の著名人を集めているので先生の質が良く、大学の設備も最新でした。さらに、新しさゆえに当時は実績が少なかったことから、パースの大学の中で学費が一番リーズナブルだった点もポイントでした。
色々な方の話を聞いてこうした事情を知る中で「現状の知名度や実績は関係ない」と思いました。何より、実際にエディスコーワン大学に足を踏み入れた瞬間「この大学、上がるな」と感じました。
―専攻について教えてください
オーストラリア永住を目指して、会計学を選びました。ただ、今振り返ると永住権目的では専攻を選ばない方が良いと思います。
会計学は、大学入学当時は永住権の取得に有利といわれる学位でしたが、永住希望者の増加に伴い、在学中に規定が変わりました。結果的に就職は難しく、また自分自身、会計業務が好きではないことにもあとから気付きました。
専攻は、自分が本当に学びたい学問を選ぶべきだと思います。
―先ほど「生活費を自分で賄った」とお話がありましたが、大学生活とアルバイトの両立は大変だったのでは?
はい。お金を貯めるため、学期中は週に20時間、長期期間はフルタイムでずっとアルバイトをしていました。
一方で、大学のテスト期間中はアルバイトを休んでひたすら勉強しました。図書館で寝て、飲食して、また勉強…
そんなわけで大学在学中、休みは2、3ヶ月に1回くらいでした。精神的なストレスで、肋間神経痛という症状が出てしまったこともありました…
現地就職は難航…友人の言葉をきっかけに帰国を決め、スムーズに内定
―就職活動について教えてください
最初は現地で会計士になることを目指して、インターンも経験しました。ただ、ビザの問題で会計士としての仕事探しは難航し、大学卒業後もしばらく悶々とした日が続きました。
そんな中で転機になったのは「日本に帰ることも視野に入れたら?」という友人の言葉です。
当時の自分は、家族や日本の友人から「(大学留学が)すごいね」「海外で会計士だね」などと言われるうちに、いつの間にか帰国するという選択肢を消していました。
でも、心の底では日本を求めていたのだと思います。たとえば仕事の上でも、時間に正確でいたい自分と、ルーズなオーストラリアは合わないと感じることもありました。
友人の言葉をきっかけに日本での就職を考えるようになり、日系企業が参加するシドニーキャリアフォーラムへ参加しました。そこで内定をいただのが今の会社です。
自分には営業職が向いているのではないかと思い応募したところ、一次面接で面接官から「ぜひ来てほしい」と言われました。ビザを理由にオーストラリアの企業から断られ続けていた、そんな自分を求めてもらえたことが嬉しかったですし、海外に行った自分を欲してくれる母国に対して、熱い気持ちを抱きました。
これからも仕事で成果を出しつつ、私生活も大切にしながら、余裕のある人生を送っていきたいと思います。
留学は決して高くない壁。怖がらず気軽に挑戦してほしい
―留学が活きていると感じることは何ですか?
メンタルの強さです。日本で敷かれたレールを外れて、1人で海外へ行き、家族もいない中で何年も頑張るのはきついです。
でも、乗り越えたあとには充実感が残り、帰国してからも「留学に比べれば、こんなことは余裕!」と思うことができます。
―吉野さんにとって留学とは?
かっこいいこと言ったほうが良いですか?笑 そうですね…決して高くない壁、としましょうか。
留学は、日本ではハードルが高いイメージがあると思います。でも、オーストラリアの生活は日本とそれほど変わらないですし、最初は英語が通じなくても、ジェスチャーでなんとかなります。
「お金がない」も言い訳になりません。日本の信用金庫から借り、留学後に働いて返済できます。留学によって価値ある人材になれば、投資対効果も期待できるでしょう。
自分としては「サンダルを履いて外に出る」くらいの感覚で、怖がらず気軽に留学してほしいですね。
―留学を考えている方にアドバイスをお願いします
留学の壁は、家族、友人、教師だと思います。彼らを納得させるための説得力を鍛えて、留学するべき理由を、自信を持って言えるようにしてください。
自分も高校生の時、周りから「なぜ留学?」と言われることがありました。でも、たとえば高校は、日本の大学への進学実績を出したい場合もあります。そうした周囲の都合のせいで、自分の人生を棒に振ってはいけません。
日本では「大学は人生の夏休み」と言われることも多いですが、それに違和感のある人は絶対に留学するべきです。
取材後記
若くして自分で工面し留学を実現した吉野さんのお話を聞いて、どんな状況でも留学できる方法はありそうだと思いました。
そして「高校卒業後はまず大学に」「とりあえず有名な学校に」となりがちな世間に流されず、ワーキングホリデーを利用して自分で考え、大学留学を選んだ吉野さん。すべてが自分の責任だからこそ、自身の選択に真剣に向き合えるのかもしれません。
率直で嘘のない吉野さんは、まさに「自分の人生を生きる人」だと感じました
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