●中井 美和(Miwa Nakai)さん
大阪府出身。日本の高校を卒業後、QIBT(現Griffith College)で商学ディプロマを取得後、グリフィス大学に編入し経済学を学ぶ。卒業後は神戸大学大学院経済学研究科で環境経済学を学び、博士(経済学)修了。東京大学と早稲田大学で研究員を務め、現在は福井県立大学経済学部の准教授。

環境課題の施策に向けて、ドイツ・フィリピンの研究者と共同研究

―現在のお仕事について教えてください

福井県立大学経済学部の准教授として、授業や研究活動に携わっています。

専門は環境経済学です。主に、ESG投資(環境、社会、企業統治を考慮する投資)や個人の環境保全行動に関する実証研究に取り組んでいます。また、近年、途上国での研究も始めました。具体的には、フィリピンのエアコンのラベル表示に関する研究です。
―エアコンのラベル…!?
簡単に言うと「どうすれば消費者に省エネエアコンを購入してもらえるか」を検証する目的の研究です。

アンケート調査を通して、エアコンを購入する時にどのようなラベル表示があれば省エネ製品を選んでもらえるのかを調べます。
―より多くの人に省エネ製品に目を向けてもらうことで、温暖化対策に繋げるのですね。なぜフィリピンで研究するのですか?
パリ協定(2020年以降の地球温暖化対策を定めた国際的な協定)の取り組みに向けて、途上国の温暖化政策がとても重要だからです。

特に、経済発展の目覚ましい東南アジアは、家電製品、特にエアコンの新規購入層が増えています。さらに人口増加も相まって、温室効果ガス排出量の増加が懸念されています。
―中井さんの研究によって効果的な施策を導けば、色々な国で活かせそうですね!
ありがとうございます。実はこの研究は、インドネシアへの拡張も進んでいます。

ただ、インドネシアの場合はフィリピンと少し事情が違います。

フィリピンは化石燃料を海外に強く依存しており、また発送電コストが高いため、アジアでは日本、シンガポールに次いで電気料金が高い国です。そこで私の研究では、人々の節電意識に働きかけ、より多くの消費者が省エネエアコンを選択するラベルの表示方法を明らかにしました。

一方、インドネシアは資源が豊かで電気料金が安いので、フィリピンと同じ訴求では省エネエアコンにメリットを感じてもらうことが難しいと考えています。

それではどのような情報を提示すれば良いのかという点を、今後、現地での調査などから考えていく予定です。
―専門として環境経済学を選んだきっかけを教えてください
オーストラリアで経済と環境の関係性に興味を持つようになりました。

当時からオーストラリアでは人気のあったエコツーリズムのように、環境を保全しながら地域の収入に変えていくという考え方があることを知るなど、オーストラリア留学中は環境保全と市場経済の両立というテーマを意識する機会が多かったと思います。

国際的なジャーナリストを目指して、オーストラリアへ留学


―留学のきっかけを教えてください
実は、当時は記者を目指していて、海外の大学でジャーナリズムを勉強するつもりでした。

国際紛争に関心があり、戦場ジャーナリストに憧れていました。

もともと英語が好きで、海外の著名なメディアに寄稿できるようになれたらと思っていました。
―留学先としてオーストラリアを選んだ理由は?
良い教育システムでありながら、授業料や生活費などの費用面において、他の国よりもリーズナブルだと感じたからです。

講義だけではなく、チュートリアルで少人数で学ぶことができ、意欲がある人を支援してくれる教育体制だと思いました。
―グリフィス大学を選んだ理由は?
Queensland Institute of Business and Technology (現 Griffith College)でディプロマを取得後グリフィス大学に編入でき、合計3年間で卒業できることと、グリフィス大学のあるクイーンズランド州は他州よりも生活費が抑えられそうだと感じたことなど、色々あります。

本での情報収集や、オーストラリア大使館が主催する留学フェアで現地のスタッフと直接話す中で、グリフィス大学が一番良さそうだと思いました。

ディプロマの授業での運命の出会いが、経済学専攻のきっかけに


―ジャーナリズムから経済学専攻に転向したきっかけを教えてください
ディプロマの最後の学期で取った経済学の授業で、とても面白い授業をしてくださる先生に出会ったことです。

高校生の時は数学が大嫌いで、経済学にも苦手意識を持っていた私ですが、その授業は毎回一瞬のように感じるほどのめり込み、学部で経済学を勉強することを決めました。

そして学部に編入後、もう少し勉強したいという気持ちから、大学院への進学を考えるようになりました。

卒業後は日本の大学院に進学し、研究者の道にチャレンジ


―グリフィス大学卒業後、日本の大学院へ進学した理由は?
オーストラリアの大学院は、カリキュラム上授業が多く研究の時間が少ないこと、さらに修士修了後の日本での就職活動を考えた時に、日本の大学院の方が良いと考えたからです。

グリフィス大学在学中から、日本の大学院の環境経済学の先生を探し、長期休暇の帰国に合わせてアポイントを取りました。

何人かの先生にお話を伺う中で、特に「この先生の元で学びたい」と感じた方がいらっしゃった、神戸大学大学院経済学研究科を受験しました。

最初は、修士修了後は就職するつもりでしたが、博士課程の先輩の発表などを聞く中で「かっこいい、自分も研究の道を究めたい」という気持ちが少しずつ芽生え始めました。

研究者としてのキャリアは、就職の面でも厳しい道のりになることは感じていましたが、それでもチャレンジしたいと思うようになり、博士課程に進みました。

様々な研究者との共同研究。海外プロジェクトで夢も叶えた!


博士課程修了後は、東京大学の研究組織で工学者との共同研究に携わりました。
―就職活動はどのように進めましたか?
お世話になった東京大学の研究組織が当時、経済学者を募集していて、声を掛けていただきました。

博士課程に在学中、学会で発表したテーマに興味を持っていただいたことをきっかけに、産業技術総合研究所という経済産業省所管の理系の研究所で働いた経験があります。それを知って「理系の研究所での経験があれば、工学者とも問題なく共同研究ができるのでは」と思ってくださったようです。

経済学の研究者は、他分野の研究者と共同研究をする人が全体的に少ないこともあり、人探しに難航していたようです。

特定の分野が単独で社会の課題を解決できる時代ではなくなり、今は色々な専門家と一緒に研究をしていく必要があると感じています。

その上でも、工学という他分野の研究者の考え方を吸収できたことはとても大きな財産になりました。
―異動のきっかけを教えてください
他分野の方と共同研究をさせていただく機会は得られた一方、経済学者との共同研究によって自身の専門性を高めたい、また英語を活かせる研究をしたいという夢がありました。

そんな時に早稲田大学の公募で、ちょうど海外プロジェクト担当の求人を見つけ、運良く採用していただきました。

まさに夢が叶い、プロジェクトではドイツやフィリピンに滞在することも。ドイツへ出張に行った時、当時の上司から「中井さん、今すごく幸せそう。すごく輝いてる!」と言われたことが忘れられません!

早稲田大学での任期終了後も、福井県立大学で引き続き共同研究を継続しています。

これからも様々な場所を飛び回り、英語を使って色々な国の方と共同研究を続けていきたいです。

グリフィス大学との交流のきっかけになった同窓会。母校に恩返しをしていきたい


―お仕事でオーストラリアに戻ることもありそうですね!
実は、2019年に母校のグリフィス大学でも研究発表をさせていただきました。

そしてその時に、ディプロマで経済学を教えてくれた先生にも再会できました!会った瞬間、先生も私も泣いてしまって(笑)先生に「あなたのお陰で、今があります」と伝えることができました。

その先生とは、なんと共同研究の話も進んでいます。その他のグリフィス大学の先生方とも、別の共同研究などで交流が続いています。
―人生を変えた先生と共同研究なんて、ドラマのようです…!先生方も嬉しいですよね

ありがとうございます。実は、グリフィス大学とのネットワークが広がったのは、日本で開催された同窓会のお陰でもあります。

同窓会でお会いしたグリフィス大学の先生にセミナーをセッティングしていただく機会などがありました。
―同窓会にそんなチャンスが!
そうですね。ただ、その時に集まった卒業生は、たったの4、5人。私の中では悲しい事件でした…

先生にもオーストラリアから来ていただき、都心の広いレストランを貸し切ってくださっていたのに、なんでこんなに人が少ないの?と、とても申し訳ない気持ちになりました。

そこで私に何かできないかと思い、グリフィス大学の日本人卒業生グループを立ち上げました。今ではメンバーが167人まで増え、直近の同窓会では30人ほど集まりました。

こうしたイベントやグループの維持が、恩返しの一環になればと思っています。

オーストラリアでの経験は、共同研究のアプローチにも活きている


―オーストラリア留学が活きていると感じることは?
他分野や海外の方と円滑に共同研究を進められていることでしょうか。

オーストラリアで、様々なバックグラウンドの人との生活を通して苦労もする中で「日本人が常識だと思っていることを相手に求めてしまうから、苛立ってしまう」ということに気付きました。

価値観や文化が違う人と一緒に目標を定め、その目標に向かって上手く進むためのコミュニケーションの取り方やアプローチの仕方は、オーストラリアの経験が活きていると思います。

留学中は成長できる仲間と一緒に、目標を持って過ごしてほしい

―留学を考えている学生にアドバイスをお願いします
勉強でも、遊びでも、ボランティアでも何でも良いと思いますが「留学中にこれを習得して帰る」という目標を持って過ごしてほしいです。

その目標は、現地での経験を通して変わることがあるかもしれませんが、都度見直し続けることが大切です。

そしてそのためには「こういう人になりたい」と思える人といることが大事だと思います。

例えば私の周りには、高校卒業後に社会人として働いた後、大学で学び直しているオーストラリア人などもいました。

その子はやはり一生懸命勉強していましたし、そういう友達が周りにいてくれたことで、私自身も目標を持って頑張ることができました。

留学は大きく成長できる機会の1つだからこそ、限られた時間を1秒も無駄にしてほしくないですね。

取材後記

面白くてパワフルな中井さんのお陰で、何となく難しそうなイメージがあった環境経済学を身近に感じることができました。
お仕事でも、卒業生のコミュニティでも、グリフィス大学のアンバサダーとして活躍されている中井さん。これからグリフィス大学に留学する方や卒業生の方は、グループにもぜひ参加してみてくださいね!

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