●安田 直樹 (Naoki Yasuda)さん
東京都出身。高校卒業後RMIT大学に入学、映像メディアコースのアドバンストディプロマ修了。
GOOD COFFEE、株式会社ブレインを経てLa Cabra Coffee Roastersに入社し、デンマーク、ドバイで働く。
2020年7月にオープンした東京・入谷のカフェ「rebon Kaisaiyu(レボン快哉湯)」をプロデュース。
アイスクリームとコーヒーのマリアージュを楽しめる、旧銭湯内のカフェ
―銭湯をリノベーションしたカフェとは珍しいですね!
コンセプトは「記憶をつなぐカフェ」。
1928年に創業し、数年前まで営業していた銭湯「快哉湯」の景観を残しています。
銭湯という人が集まる場所に、カフェという形で再び人を集めて記憶を繋ぎたいという思いが込められています。
―お店の名前rebon(レボン)の由来は?
銭湯からカフェに「生まれ変わる(reborn)」という意味があります。地元に愛されるカフェを目指し、おじいちゃんおばあちゃんにも覚えてもらいやすい語呂の良さも意識しています。
―おすすめのメニューを教えてください
アイスクリームとコーヒーのマリアージュプレートです。アイスクリームはブルーベリー、チョコレート、キウイ、湘南ゴールドの4種類。農園まで行ってフルーツを直接買い付け、お店で手作りしています。
それぞれのアイスクリームの味に合うコーヒーを選んでいるので、プレートごとにコーヒーの種類も違います。
―細部までこだわっていますね!
もともとコーヒーには詳しくなかったのですが…きっかけはオーストラリア留学でした。
オーストラリアで映画制作を学びながら、バリスタとしてアルバイト
―留学のきっかけを教えてください
両親がオーストラリアでワーキングホリデーを経験しているので、小さい頃からオーストラリアの話を聞いて憧れがありました。
また洋画が好きで、当時は映画監督になりたいという気持ちも。そこで映画制作を勉強できるオーストラリアの大学を探し、メルボルンにあるRMIT大学を選びました。
―留学生活で印象に残っていることは?
授業の制作期間は大学で忙しくしていましたが、その他の時間はバリスタのアルバイトなどをしていました。
―コーヒーとの出会いの原点ですね!アルバイトのきっかけを教えてください
留学中に「アルバイトをしよう、せっかくならオーストラリアっぽいことをやりたい」と思いました。
友達に話すと「この街(メルボルン)はカフェ文化も発達してるし、バリスタが良いんじゃない?」と言われて。
「バリスタって何?」というところから始まりましたが、面白そうだと思い、まずは家庭用コーヒーマシンを購入して自宅で練習することに。
最初は何も分からず、インスタントコーヒーの粉をエスプレッソマシンにかけたことも(笑) インターネットで調べながら1つずつ学んでいきました。
少し覚えたところで現地のカフェに履歴書を持ちこみ、促されるまま実演すると「明日から来て」と。こうしてアルバイトが始まりました。
―オーストラリアの仕事は経験を重視されることが多いですが、独学で経験を培ったのですね!
GOOD COFEEに通いつめて、気付けばメンバーに
―卒業後のキャリアについて教えてください
留学中の経験を通して、仕事としてやりたいことの軸が、映像よりもコーヒーへと移っていきました。
特に興味を持ったのが、東京にあるGOOD COFFEE。
GOOD COFFEEで働くことを目指して 、RMIT大学のアドバンストディプロマを修了後(同校の映像コースは、ディプロマ、アドバンストディプロマ、学部の学位を1年毎に取得し最長3年間勉強するカリキュラム)、日本に帰国しました。
―GOOD COFFEEのどんなところに魅力を感じましたか?
体験型の事業に惹かれました。GOOD COFFEEは、世界中のカフェを紹介するWEBメディア、そのメディアで紹介したコーヒーを提供する直営店、コーヒーのブランドが実際に出展する東京コーヒーフェスティバルというイベント(青山で年3回開催)を手掛けています。
また留学当時、SNSなどを通して東京のコーヒー文化が盛り上がっていることも感じていて。
メルボルンはオセアニアスタイルのコーヒーが中心ですが、東京には個人の喫茶店から外資系コーヒーチェーンなど全てが集まっていて、面白いと思いました。
―就職活動はどのように進めましたか?
GOOD COFFEEの直営店に行き「働きたいです」と(笑)
―就職活動というよりも直談判ですね(笑)
求人は募集していないと言われましたが、その後毎日お店に通い、バリスタの方が出展するイベントにも足を運び…徐々に手伝いを頼まれるようになって、気付けばメンバーに(笑)
その後はお店のバリスタ業務やセミナー開催、イベントの手伝いなどを行いました。
同時に、GOOD COFFEEと繋がりのある制作会社で、映像関係の仕事に関わる機会もありました。
―転職のきっかけについて教えてください
2社目に入社した会社は、もともとGOOD COFFEEの出向先として社内カフェの立ち上げに携わっていました。
どちらかに軸を置きたいという気持ちから転職し、カフェの責任者として色々なイベントを企画しました。
例えば休日の朝活イベント。カフェがオフィス街にあったので、休日に人を呼ぶための企画として、シェフやバリスタと一緒に朝ごはんを作るイベントなどを実施しました。
La Cabra Cofee Roastersと出会い、デンマーク行きを決意
カフェやイベント、映像など様々な仕事に関わる中で「自分が何屋か分からない」という気持ちも。
コーヒーに特化した仕事がしたいと感じていた時期に、たまたまデンマークを拠点とするLa Cabra Cofee Roastersの初来日と、東京コーヒーフェスティバルへの出展が決まりました。
もともと好きなブランドだったので、イベント当日は自ら志願してLa Cabra Cofee Roastersのブースで働くことに。
オーナーと話をするうちに、一緒に働かないかと誘っていただき、デンマークでバリスタとして働くことをその場で決めました。
―デンマークはどうでしたか?
チェコ人やスコットランド人、ノルウェー人などが集まる多国籍な環境でした。
地理的にヨーロッパの人が中心なので、同じ多国籍でも、アジア人が多いオーストラリアとは違いがあり興味深かったです。
例えば、デンマーク語とドイツ語が似ているので、ドイツ人がすぐにデンマーク語を話せるようになったり…近いけど違う、近いから同じ、という文化が面白いと思いました。
意気込んで臨んだドバイのプロジェクトから一転…帰国へ
デンマークで働き始めてから半年後、ドバイにLa Cabra Cofee Roastersの直営店を出すというプロジェクトが発足して立ち上げメンバーに抜擢され、数年間は現地で暮らす覚悟で現地へ向かいました。
しかし、現地の法整備やインフラの問題でプロジェクトが頓挫…数カ月で日本へ帰国することになりました。
思いがけず企画が通り、個人事業主としてカフェ立ち上げに参画
―帰国後のお仕事について教えてください
ドバイのプロジェクトに意気込んでいたこともあり、正直、帰国当初は何もやる気がおきませんでしたが…
迷いを感じながらも自分の地元のために何かやりたいと思っていたところ、Wantedlyで、地元の東京・台東区にあるホテルのツアーガイドの求人を見つけました。
訪問し自分の経歴を話すと「紹介したい場所があるのだけれど…」と言われ、連れて来られたのがこの快哉湯。
ツアーガイドの募集とは別に、廃業になったこの銭湯の活用方法を探しているという話を聞きました。
時間に余裕のある時期だったこともあり、カフェの企画書を書いて次の日に持って行くと、その翌日には関係者にプレゼンをすることに。
すると企画が通り、個人事業主として立ち上げに関わることになりました。
―rebon Kaisaiyuは、偶然が重なってオープンしたのですね!
はい。rebon Kaisaiyuは1人ではなくチームで作っています。
例えば、最初にご紹介したマリアージュプレートは僕のアイディアですが、今の素敵な形に仕上げたのはデザイナーと家具職人。プロジェクトのような形で進んでいますね。
オーストラリアで学んだ映画制作と、カフェの経歴を活かしてプロジェクトを作りたい
―個人事業主という立場になり、これまでのキャリアとの違いは感じますか?
これまでは与えられた場所で頑張る働き方でしたが、個人事業主になってからは0→1を作っていると感じます。
もともと仕事を振られるよりも、自分で見つけて開拓したり、企画して仕事にしたりする方が向いているので、こういうキャリアになっているのかもしれません。
―これからやりたいことは?
もちろんrebon Kaisaiyuもやりたいことの1つですが、オーストラリア留学中の映画制作の経験とカフェでの経歴、どちらも活かした活動をしたいです。
例えば今進めているのは、飲食と映像を掛け合わせたプロジェクト。飲食店の想いを映像で伝えていきたいと思っています。
例えばこれ(目の前にあった、コーヒー抽出に使用するスケールを指しながら)、後ろ側から撮った方がすっきりして綺麗です。でも、正面から撮影して計量数字をしっかり映した方が、意味のある角度になることがある。
こんな風に、単純に絵として格好良いだけではなく、意味が伝わる映像を制作していきたいです。
―オーストラリアで映画制作を学んだ安田さんだからこそ、映像のストーリーを大切にしているのですね。
留学中の勉強とカフェのキャリアが、まさに両方活かされています!
留学中に繋がる日本人は、帰国後に大切な人脈になる
―これから留学を考えている学生にアドバイスをお願いします
卒業後に日本へ戻ることが前提ではありますが、留学中に現地で日本人と繋がることは大事だと思います。
留学中は、日本人を避けたくなる気持ちもあるかもしれません。
―有意義な留学生活を送ろうと思うほど「せっかく海外にいるなら、日本人と一緒にいてはいけない」という気持ちになりますよね
そう。ただ海外の大学に留学すると、帰国後、周りに大学時代の知り合いがいない、という状況になります。
―たしかに日本の大学を卒業した友達と比べると、身近な同級生が少なく孤独を感じやすいかもしれないです…
留学中に知り合う日本人は、その後のキャリアや人生において貴重な人脈になると思うので、大切にしてほしいです。
取材後記
これだけの行動力と海外経験がありながら「やっぱり日本が好き」と話す素朴な安田さん。安田さんが作るアイスクリームとコーヒーには、「好き」へのこだわりと、飾らない人柄が現れている気がしました。皆さんもぜひ、rebon Kaisaiyuに足を運んでみてくださいね。
*Special Thanks:畑雅也さん
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