
●葛貫 加奈子(Kanako Kuzunuki)さん
神奈川県出身。県内の高校を卒業後、ブリスベンの語学学校を経て、メルボルンのウィリアム・アングリス・インスティチュート専門大学でホテルマネジメントを学ぶ。卒業後は日本の大手美容・医療メーカーのグローバル部署に配属。海外駐在に向けて国内の営業活動に携わる。
会社初の女性営業!グローバル部署で試行錯誤の日々

―現在のお仕事について教えてください
美容・医療機器メーカーのグローバル部署に所属していて、将来は海外駐在も予定しています。今はそのための土台作りとして、国内の美容業界の市場を学ぶために営業活動に携わっています。
具体的な業務は、理美容室への美容機器の販売、開業のサポートなど。
私はこれまでに、ショールームでの接客や、開業支援をする新規開拓部署で勉強させていただきました。これから営業活動を中心に行なう予定です。国内市場で経験を積み、製品知識や美容業界のニーズ、営業スキルなどを身に付けて、いずれ海外事業で活躍することが求められています。
このグローバル部署のキャリアパスと、女性による営業は、実は会社の長い歴史の中で前例がない初の試みです。私の働き方次第で会社の今後の女性営業のあり方を検討する、という大きな役割を担っています。
営業の仕事は、ヘルメットを被って工事現場を訪れ、100kg以上の重い製品を運ぶ手伝いするなど体への負担がかかることが原因で、これまで女性は配属されませんでした。フィジカル面での負担は確かに大きいと思います。
しかし、女性の社会進出はこれからさらに求められるので、「女性だからできない」と思われないように、根性をもって泥臭く頑張りたいと思います。
ホテルマネジメントを学ぶため、高校卒業後はオーストラリアへ留学

―昔から今のようなビジネス職を目指していたのですか?
いいえ、もともとホスピタリティに興味を持っていて、オーストラリアの専門大学でホテルマネジメントを勉強しました。
―オーストラリア留学のきっかけを教えてください
小学生の時の家族旅行を通して、オーストラリアそのものに魅力を感じたことが最初のきっかけです。
当時水泳を習っていたこともあり、旅行中、兄弟揃って現地のスイミングスクールに3日間通う経験をしました。当時10歳で英語は全く分かりませんでしたが、現地の人たちとジェスチャーで何とかやり取りをする中で、もっとコミュニケーションを取りたいと思いました。
さらに、宿泊先のホテルのアットホームな空気や、人のあたたかさも印象的でした。
その後大学で学びたいことを考えた時、オーストラリアでの経験を思い出しながら、自分もホテルで働く立場になったら面白そうだと思いました。
そして「外国人観光客も増える中、ホテル業界で活躍するには、日本よりも海外で勉強して語学力とホスピタリティを身に付けた方が活躍できる」と思いました。家族のサポートもあり、オーストラリア留学を決めました。
留学エージェントから紹介された語学学校がブリスベンにあり、最初はブリスベンの語学学校に通いました。
切磋琢磨する友人の姿が向上心に繋がり、ホームシックを乗り越えた

―ブリスベンの語学学校を終えた後、メルボルンのウィリアム・アングリス・インスティチュートを選んだきっかけを教えてください
ホテルマネジメントを学べて、かつディプロマと学部課程をどちらも取得できる点が良いと思ったからです。 これによって、学部進学の可能性も残しながら、ディプロマを取得して日本に帰国することもできます。
もともと学士をとることが一番の目的でしたが、実は、どうしてもホームシックで耐えられず、ディプロマを取得して日本の大学に編入したいと家族に相談していた時期がありました。
―学部留学よりも短い期間で留学を終えられる方法を考慮した、ということですね
はい。オーストラリア留学中、最初は言葉の壁から、本来の私らしさを活かせないことがたくさんありました。自分の英語力に不安があり、もともと喋ることが大好きなのに自信をなくして黙ってしまうなど…日本に帰りたいという気持ちばかり膨らみました。
―最終的にはディプロマ修了後、帰国せずにそのまま学部へ進学しましたね
はい。エッセイやプレゼンなどのスキルを身に付けたかったからです。
ディプロマは実技が充実していましたが、ホテル以外での就職を目指したくなった時のことを考えて、将来のために可能性を広げておきたいと思いました。
―この時の選択が今のキャリアに繋がっていますね。ホームシックはどう乗り越えましたか?
学部での勉強が始まり周りのレベルが上がるにつれて、自然と向上心が芽生えました。友人に恵まれたと自信をもっていえます。
クラスメイトは、アジア圏のホテル経営者の子息が大半で、将来は家族のホテルを継ぐことを見据えて留学していました。
そういう友人たちのダイナミックな考え方に刺激を受けましたし、彼らが頑張る姿は私自身のやる気にも繋がり、結果的に良い成績にも繋がるようになりました。
一時期は、家族に毎日電話をして泣いていたこともあった私ですが、留学の終盤は自分からは連絡することを忘れるほど、留学を楽しむことができました!

順調にホテル内定も…キャリアの幅を広げるために他業種で就職活動
―就職活動について教えてください
実は、私は2回就職活動をしています。
最初は日本での外資系ホテル就職を目指していました。マイナビやリクナビ経由で応募し、学期中の中間休みに一時帰国して履歴書を提出、長期休みに面接を受けました。
参加必須の説明会が学期と重なり、選考に進めないホテルなどもありましたが、外資系のホテルは日程を調整してもらいやすく、4社ほど内定をいただきました。
―1回目の就職活動は順調に終わったのですね。その後何が…?
内定後にキャリアパスを聞き、私には合わないかもしれないと感じました。
ホテルでのキャリアは、まず清掃や飲料部門から始まり、徐々にステップアップします。私は、オーストラリアで学んだホテルマネジメントの知識を活かしてマーケティングに携わりたかったのですが、それまでに最低でも5年はかかることを知りました。すぐにでも留学の経験を存分に発揮したいのに、その環境を獲得できそうになかったですね。
そこで内定を全て辞退して、就活を再スタートすることに。ボストンキャリアフォーラムに参加しました。
―退路を断ち、ボストンまで行ったのですね!
はい。世界的な大企業が集まる大きな就活フォーラムなので、世界展開していたり、海外事業に力を入れていたりする企業が多く出展していると思いました。
何より後がなく、どうしてもここで就職先を決めたいと思っていたので、背水の陣で臨みました。

―2回目はどのような軸で就職活動を進めましたか?
業種は問わず、駐在ができるかどうか、どの国に現地法人があるか、会社の規模、資産などを調べて検討しました。
グローバルな経営方針で海外駐在の可能性も高い企業で働きたい、語学を活かしてキャリアの可能性を広げたい、と思っていたところ、今の会社から内定をいただきました。
ちなみに就職活動の際、私の場合は、私生活よりも勉強した内容を中心にアピールしたところ、内定を獲得しやすくなりました。就職活動では、どのような理由で何を勉強し、どんな収穫があったのかという点を話すことをおすすめします。
―今の会社を選んだ決め手を教えてください
世界中に現地法人があり、これからさらに海外事業に力を入れていく方針もあり、駐在の可能性が高い点に魅力を感じました。
また、創立100年を迎える日系の大企業で安心感があり、落ち着いて長く働き続けられそうな点も、私に合っていると思いました。
今の仕事でもホスピタリティを発揮!様々な経験をグローバル事業に活かしたい
―留学中にホテルマネジメントで学んだことが今の仕事に活きていると感じることはありますか?
お客様が聞きたいことを先回りして察する気遣いでしょうか。
聞かれることを待つのではなく、かと言って自分が一方的に話すのではなく、ヒアリングをしながらお客様が悩んでいることを自分なりに解釈し、会話を進めることを意識しています。
こうしたことを意識して、ショールームでお客様への商品説明などをすると「葛貫さんが担当者で良かった」と言っていていただけることも増えました。ホスピタリティが形になったのではないかと思うと、やりがいを感じます。
―これからやりたいことは?
やはりグローバル業務に携わることです。
ゆくゆくはグローバル部署に異動し、国外の方を顧客とする英語を使った業務に携わる予定です。今勉強している国内市場や営業の知識と、これまでの留学の経験を活かして、海外駐在に向けて頑張りたいです。
留学を通して生まれた第二の自分。大事なのは楽な方に逃げないこと

―葛貫さんにとって留学とは?
留学を通して、新しい自分を作ることができたと思います。私は留学後、中学・高校時代の同級生に会うと「変わったね」「強くなったね」と言われることが多くなりました。
私は、幼少期は特に人の言葉に傷つきやすく、すぐに泣いてしまうところがありました。その弱さは留学の4年間のうち前半の2年まで続きました。それでも辛い時期を乗り越えて、後半は本当に毎日が楽しかったです。
あの時逆境に立ったからこそ「こんなことができるんだ」と自分の意外な面に気付くことができ、ずっと日本にいたら存在しなかったであろう第二の自分に出会えたのかなと思います。
新しい自分を発見すると、人生を豊かに、楽しくできると思います。様々な環境への適応力や人間性が広がれば、やりたいことや友達付き合いなども広がるのではないでしょうか。
―これから留学する方にアドバイスをお願いします
楽な方に逃げないことです。
オーストラリアは、日本人に人気なだけあって、治安が良く安心感がありとても過ごしやすいですが…それは裏を返せば、日本人が周りにたくさんいて、日本人と一緒にいる安心感に逃げようと思えば、いくらでも逃げられるということです。正直英語を話せなくてもある程度の生活ができてしまうほど。
でも、そこで逃げてしまったら成長しません。私は留学中、日本人コミュニティからの誘いは断り、外国人の友達を探すようにしていました。断ち切らなければ結果はついてこないと思ったからです。
留学は、海外にいればいいというものではありません。自分のやりたいことや習得したいことを明確にして、決めたことを行動に移す必要があります。

取材後記
「芸能人?」と思うくらい華やかなオーラが眩しかった葛貫さん。
「泥臭く仕事を頑張りたい」と話す芯の強さが印象的でしたが、それは留学中の辛い時期を乗り越えた「第二の葛貫さん」の強さなのかもしれません。
葛貫さんのお話を聞いて「やっぱり留学って人を変えるんだな」と改めて感じました。
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